AKA-博田法とは

AKA-博田法とは

AKA-博田法とは、Physical Medicine & Rehabilitation(物理医学とリハビリテーション)専門医である博田節夫先生が、これまでの運動療法に不足している部分を補完することで、より効果的に行うために開発した治療技術です。
関節機能が障害されると、関節可動域の制限、筋力・協調性の低下、痛みの出現などを引き起こし、随意運動や動作能力の低下もたらします。これは、疾患を問わず、臨床で担当する多くの症例に起こる可能性があります。この関節機能障害※1を治療できる技術が、AKA-博田法です。
また、関連技術の関節神経学的治療法(ANT)※2と組み合わせると、失行・失認などの高次脳機能障害を含む神経系の治療、とくに脳卒中の治療・訓練技術がより効果的になるなど、治療の幅が広がります。

※1.関節機能障害の症状
関節可動域制限や筋力低下などの運動障害、感覚障害、筋・軟部組織の緊張異常、筋委縮、痛み、腫張、発赤、など。

※2.関節神経学的治療法 articular neurological therapy(ANT)
関節神経学的治療法は、体幹あるいは四肢の関節に圧迫、滑り、および離開を単独または組み合わせて加えることにより、関節受容器を介して運動機能および神経系機能を改善する方法です。AKA-博田法の関連技術として位置づけられています。

定義

関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)-博田法(Hakata method)は関節運動学(arthrokinematics)に基づき、関節神経学(articular neurology)を考慮して、関節の遊び、関節面の滑り、回転、回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法、および関節面の運動を誘導する方法である。

AKA-博田法の技術

大きく分けて2種類の技術からなります。

  • 1)副運動技術
    関節包内運動の異常を治療する技術
    目的:関節機能障害の治療、関節拘縮の治療(関節包内軟部組織:関節包・靭帯の伸張)
  • 2)構成運動技術
    骨運動に伴った関節面の運動を誘導する技術
    目的:麻痺の回復を促進、関節拘縮の治療(関節包外軟部組織:筋・腱の伸張)、関節可動域の維持・増大、筋力・持久力の維持・増強

関節機能障害による痛みの治療技術

理学療法における「痛み」に対する従来の治療は、物理療法やマッサージなどの対症療法のみでしたが、このAKA-博田法は、「関節機能障害」によって発生した痛み(関連痛を含む)に対して直接治療ができる技術です。

例)仙腸関節機能障害

非特異的腰痛(原因不明)の割合は、85%と言われています。その多くは、仙腸関節の関節機能障害が原因で起こり、AKA-博田法による仙腸関節の治療で改善することができます。

仙腸関節機能障害

図)仙腸関節の副運動技術

運動療法の欠陥を補う技術

伝統的な運動療法の技術的欠陥の一つは、関節包内運動と骨運動(とくに付随回旋)を考慮していないことです。関節が動くとき関節面や骨がどのように動いているかを考慮することにより、伸張運動や神経筋再教育などの運動療法において、痛みを引き起こさず効果的な治療ができます。

例)足関節背屈の伸張運動

従来の足関節背屈伸張運動

足部を固定し(下腿を把持し)手指で踵を尾側に引き、前足部を前腕で背屈方向へ押す方法ですが、全体として足部を頭側・天井側へ持ち上げています。本来の関節包内運動と骨運動を誘導していないため痛みが発生します。

従来の足関節背屈伸張運動

AKA-博田法による足関節背屈伸張運動

関節包内運動を考慮して行うため、無痛での伸張が可能です。
足関節背屈では、脛骨に対して距骨の関節面が凸の法則に従い、足部の頭側への動きとは逆に尾側へ移動します。AKA-博田法では、それを誘導するように操作するため、本来の関節包内運動に準じた伸張運動を行うことができます。

AKA-博田法による足関節背屈伸張運動

図)足関節背屈の構成運動技術

神経系疾患に対する治療技術

脳障害や脊髄障害などの神経系の疾患において、疾患から生じる1次性機能障害に加えて、関節機能障害が大きな影響を与えます。それは、関節可動域の減少、筋力低下、協調性障害、痙縮・固縮の増強などの運動障害です。二次的に生じた運動障害に対する治療は、AKA-博田法にANT(関節神経学的治療法)を組み合わせることが多いです。

例)運動麻痺の治療

  1. 関節機能障害が存在する場合、AKA-博田法、副運動技術を行い、関節受容器の機能を正常化させます。
  2. 神経筋再教育として、筋収縮の誘発にANTを用い、構成運動と組み合わせ、随意収縮力を改善させます。
  3. 脳の障害にはANT+構成運動技術、日常の習慣動作(歩行、起き上がり等)が有効です。
C7/T1椎間関節ANT

図)C7/T1椎間関節ANT

胸郭圧迫ANTを用いた歩行練習

図)胸郭圧迫ANTを用いた歩行練習

対象疾患

  • 有痛性疾患:肩関節周囲炎、腰痛(急性、慢性)、外傷、切断肢の痛み、手根管症候群など
    ※神経原性の痛みとの鑑別にも不可欠
  • 神経、筋疾患:脳卒中、脊髄損傷、末梢神経損傷、ALS、筋ジストロフィーなど
  • 呼吸器疾患:肺気腫によるCPODなど
  • 内科/外科疾患などによる廃用症候群

上記以外にも、関節機能障害が原因もしくは影響するあらゆる疾患が対象となります。